部屋を整理していたら、昔、書いた書評が見つかった。
多分、「学校の図書館だより」に載ったものだと思う。17歳くらいのときに書いた。
あれ?なんで書いたんだっけ?
まぁ、いっか。その節は、たくさんお世話になりました。
葬り去るのも勿体無いので、少しばかり修正してここに残しておくことにします。
怒りがことばを洗練するとき -Amy Says-ニューヨーク。
作家・山田詠美はこの街を愛してやまない。
世界の金融や貿易をダイナミックに動かす一方で、
さまざまな肌の色や言葉を持つひとびとが強烈に混ざり合い、
その不均衡がこの街をもろく、危ういものにしている。
しかし、その多様さの中にこそ私たちが見失いかけたものが隠れているのでは、と
思わずにいられない。
夜のマンハッタンやブロンクスの光景は、山田詠美によって綴られるとき、
胸の中に鮮やかな影を落としていく。
メディアの中でいくら「識者」と呼ばれる人々がアメリカの情勢について語ろうとも、
それは現実味を持って私たちの胸には届かないのだ。
この「生きた」アメリカを知りたいなら、山田詠美のエッセイ「Amy Says」をお勧めしたい。
この本の中で、山田詠美は黒人に対する人種差別への怒りをシニカルな切り口でぶちまける。
それが見事に的を得ているから、読んでいて小気味のよさすら感じてしまう。
何故そうも「見事に」怒ることができるのかといえば、山田詠美の夫や友人が
アフリカ系アメリカ人だからである。
自分の愛する人が人種差別を受けるということは、自分もその痛みを共有することだ。
その痛みは悲しみであり、ある人にとっては、屈辱に等しい苦しみなのかも知れない。
人間は、他人の痛みにはどうも鈍感になってしまうようだ。山田詠美はこう語る。
「人種差別を口にすることは個人的なことでは決して、ない。
そこに多数の人間が巻き込まれるからである。」と。
言葉が個人的な領域をこえて、他人の琴線を弾いてしまったとき、そこに悲劇は起きる。
悪気は無かったんだよ、では、もはや済まされない。
私の印象に残ったのは、自分の恋人に差別発言をした白人男性に対して
山田詠美が怒鳴るシーンだった。
その白人とは、教養があり裕福な階級の“立派な”人間である。
しかし彼の発言は明らかな差別だった。
不幸なことに、彼はその言葉が他人を傷つけ侮辱しているという事実に気が付かない。
良識があり、常識も持ち合わせるべき人間が、実はそれを全く持ち合わせていない
ということは往々にして起こることだ。
さらに山田詠美は語る。
「たとえば、差別されたことのない、高級レストランにつどう白人が人種差別について語るとき、
そこには、内輪の勧善懲悪に身を浸す快楽が待ち受けていて、信憑性を奪う。
彼らの観念には実感が伴っていないからだ。」
お見事。
としか言いようの無いくらい、この作家は物事の本質を得ていると思う。
山田詠美は、怒りの力をそっくりそのまま文章に変えている。
怒っているといっても、あくまで彼女は冷静だ。
人が心の底から怒っているというのは、カッとなることではなく、
静かに、怒りを蓄積させながら震えているときのことをいうのだろう。
逆鱗に触れられたときこそ、人は数少ない言葉で真理を突くのだと思う。
だからこそ、山田詠美の文章には実感が伴うのである。
山田詠美の言葉は、人種差別だけではなく、さまざまなことに適用できる。
例えば、日本のように平和な国の中で戦争について語るとき。
何一つ不自由せず育ち、愛する人を戦争で亡くしたことが無いのならば、
それはいったい何の意味を持つのだろうか。
いったい、何の解決になるのだろうか。
でも、無関心でいるよりはマシなのかも知れない。
私たちは体験したこともないような次元に、思いを馳せずにはいられない生き物だ。
メディアというものは、始まりがそこにある。
結局、本質を語ることができるのはその痛みを知る人間だけなのに。
他に山田詠美の作品でお勧めといえば、「ぼくは勉強ができない」である。
タイトルを言うだけで、大人の方に怒られそうな本ではある。
主人公の高校生、時田秀美は勉強が嫌いであり、しかも学校嫌いときている。
恋人はバーで働く年上の女性とまで来たものだから、さあ大変。
“良識”をもつ大人なら彼を堕落していると言うかも知れないが、それでは物事の一面しか見ていない。
彼はモラルを持っているし、普通の人より「実はまっとう」に生きているとしたら?
山田詠美なんて…なんて言わずに、一度彼女の作品を読んでみて欲しいと思う。
さまざまな人間の生き様を楽しむことができるから、それだけでも楽しめるだろう。
* * * * * * * * * * * *
…という訳でした。
ほんとうに、お世話になりました。
(きっとまだまだ世話になると勝手に思い込んでいます)
秋にはお会いできず残念でしたが、また暖かくなったら
色々なお話が聞けることを楽しみにしております。
あの研究室が、忘れられません。地震来たら、死にますよ。
本につぶされるなら、本望ですか。(なんちゃってー)
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